ジーンズ刺繍事件東京高裁平成16年(行ケ)第85号審決取消請求事件
ジーンズ刺繍事件東京高裁平成16年(行ケ)第85号審決取消請求事件
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事件の概要
本件の背景
(a) 本件被告(リーバイス)は,本件原告に対し,平成8年に,不正競争防止法に基づき,本件原告の使用する標章(東京地裁平成12年6月28日判決)の使用差止め等を求める訴訟を提起した。
(b) 東京地裁は, 上記請求を認容する判決を言い渡し た。
(c) 本件原告(エドウィン)は,同判決に対して控訴を提起するとともに,平成12年9月22 日本件商標の出願をした。
そして,控訴審係属中である平成13年6月6日に上記出願につき登録査定を受け,同年7月13日に設定登録がされた。
(d) 東京高裁は,上記控訴事件につき,平成13年12月26日に上記地裁の差止認容判決を維持するとの判決(乙4)を言い渡し,同判決は確定した。
そして,同判決は,バックポケット内部の二つのアーチの曲率の差異,バックポ ケット横方向中央部において結合する位置と左右の各端部の位置の高低差の差異, 二つのアーチがバックポケット横方向中央部において結合する位置における形状の差異,バックポケット外周のうち左右各辺に沿う2本の線の上方の間隔の広がり具合の差異をも考慮し,両標章は類似するものと認めた。そして,判決は,誤認混同のおそれを肯認した。
(e) 被告(リーバイス)は,平成15年2月3日,本件商標登録の無効を主張して,本件審判を請求した。
無効審決の判断
「原告は,ジーンズ業界においては,バックポケットはブランド名等が大きく表記された革ラベルや紙ラベルと共に使用されており,需要者は,当該ラベルに大き く表記されたブランド名で商品の出所を識別することが一般的であり,原告のジー ンズも例外ではなく,かかる取引実情や,ジーンズを消費者が実際に購入する際には試着を行い店員の説明を聞き慎重に購入するのが一般的であること等からしても,商品の出所混同のおそれはないことは明らかであると主張している。 確かに,本件商標には,「SOMETHING」の文字が,引用商標1には,「LEVI‘S」の 文字が含まれており,両文字が,原告及び被告の商標として知られているものとしても,本件については,アーチ形状のステッチにおいて,本件商標が,他人の業務に係る商品と広義の混同を生ずるおそれがある商標と認められるものであり,上記した各文字部分の存在をもって,両商標間の広義の混同のおそれを否定することはできない。」
争点
1 取消事由1(商標法4条1項15号の適用範囲に関する解釈の誤り) 当該商標と引用商標が同一商品に使用されるとしても,両者の間に類似性が認められないような場合について商標法4条1項15号の適用を認めるためには,単に引用商標が周知なものでは足りず,著名な商標であることが必要である。 審決は,たとえジーンズパンツという同じ商品に使用されるとしても,著名性が否定された単なる周知な引用商標1との関係において非類似と明確に判断された商 標について15号の該当性を認めたもので,同号の適用範囲に関する解釈を誤ったものである。
2 取消事由2(商標法4条1項15号における出所混同の認定判断の誤り) 審決は,以下に記載するとおり,(1)近似性の認定,(2)周知性の認定,(3)取引の実情の認定を誤って,出所混同のおそれがあるとし,本件商標が商標法4条1項1 5号に該当すると誤って認定したものであり,違法として取り消されるべきである。
裁判所の判断取消事由1)周知性・著名性との関係
商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標 の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照ら し,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基 準として,総合的に判断されるべきであって(最高裁平成12年7月11日第3小法廷判決・民集54巻6号1848頁),上記に掲げた個々の事情ごとに峻別して 悉無律的にその存否を判断するのではなく,個々の事情ごとにその程度を検討した 上,最終的にこれらを総合して「混同のおそれ」の有無を決すべきものである。
す なわち,「混同を生ずるおそれ」の要件の判断においては,当該商標(本件商標) と他人の表示(引用商標1)との類似性の程度が商標法4条1項11号の要件を満たすものでないにしても,その程度がいかなるものであるのかについて検討した上,他人の表示(引用商標1)の周知著名性の程度や,上記諸事情に照らして総合的に判断されるべきものである。
また,周知著名性については,「混同を生ずるおそれ」の有無を判断する上で,周知性と著名性とを峻別して検討する必要性は通常考えられないから,特段の事情がない限り,周知著名性を一体としてその程度を検討すれば足りるものというべきである。
そうすると,審決が,本件商標と引用商標1とを非類似とし,引用商標1の形状 と酷似した被告バックポケットの形状が著名であるとはいえないとしながら,周知著名性の程度やその他の諸事情を検討し,結論として,同条項への該当性を認めたとしても,そのこともって直ちに違法というべきものではない。また,同条項の該当の要件として,周知では足りず,著名であることを要すると解することもできない。 以上のとおりであるから,この点に関する原告の主張は,採用の限りではない。
裁判所の判断取消事由2
(1)近似性の認定,(2)周知性の認定,(3)取引の実情の認定につき、誤りなしとし、
「取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に本件商標の登録出願時及び登録査定時 における混同を生ずるおそれを判断するならば,本件商標をその指定商品について 使用したときには,引用商標1又は被告バックポケットの形状が強く連想され,被 告ないし被告と関係のある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれが あると認められる。よって,本件商標は,商標法4条1項15号にいう「他人の業 務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」であるというべきである。」とした。
さらに、「なお,原告は,原告が被告の商標へのフリーライドをしようとすることはあり得 ないとの趣旨を主張するが,上記条項は,フリーライドのみならず,ダイリューシ ョンなどをも防止する趣旨であると解されるのであるから,仮にフリーライドでな いとしても,直ちに,上記条項への該当性が否定されることにはならない。よっ て,原告の主張は,採用の限りではない。 」とした。
結論
原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
無効審決維持